■法人向けWindows Phone導入の3つの注意
本日Microsoft主催の「Tech Fielders セミナー 東京:IT プロのための Windows Phone~企業内利用を考える」に参加してなかなか興味深い話が聞けたので気になったポイントを大きく3つほどまとめておく。各企業のポリシーにもよると思われるが、ある程度企業規模があった場合運用面で厳しい選択を迫られたり、規模が小さい場合にはコスト面で採算が合わなかったりと、いろいろと微妙だなと思うことがあったので正直WP7.5は幅広くオススメできるとは言い難く、慎重に企業ポリシーとの比較検討を行うことが必須だと感じた。特に個人情報を扱うことが多い企業は見送るのが妥当ではないかと思われる。Microsoftから提供されているソリューションを前提にした話のみとなるので、3rd partyからより洗練された解決手段が提示される可能性はあるが、以下の記事は本日のセミナーで得られた情報からのまとめとなる。
1)ソフトウェア構成管理の自由も機能も足りない
最も重要なポイント。Windows Phone 7系においてはMicrosoftがOSやアプリを含めた全てのソフトウェアの審査・管理を厳密におこなっていることにより、ソフトウェア的な信頼性を担保するという仕組みが採用されている。そのため、企業は自社業務用の独自アプリを端末に導入するためでも、様々なハードルを越える必要がある。特定条件が揃わないと動作しないアプリについてはMSのアプリ審査を通過できる確率が低く、審査を通すためには動作確認ができる条件を用意しなければならない。ベータ版として審査無しで配布する方法もないわけではないが、対象者のLive IDを把握してインストールポイントを通知する必要があり、継続的現実的な運用が難しい。一旦導入したとしても、アップデートをプッシュで自動実行する仕組みがなく、個人がアップデート操作を行わなければ更新されない。これはOSも同様でOSのアップデートはOTAではなくZune Softwareで管理されるため、個人がPCに端末を接続して自分でアップデートを行わなければならない。そして端末内のアプリのバージョン状況を確認したり、アプリの実行権限を制御したり、設定を更新したりする構成管理機能は用意されてない。端末を自由に利用していいというポリシーを採用していない限り、管理のための運用負荷が大きくなる可能性が高く、企業規模が大きくなるほど問題になる可能性が高い。
2)重要データの置き場所を社内に制限することが難しい
おそらく個人情報を取り扱っている事業者には影響が大きいと思われる内容。一般的に社外持ち出し不可のようなデータをモバイルで扱わざるを得ない場合、VPNで社内アクセスして指定のファイルの読み書きを行うことになる。同様にWP7.5のOffice機能を活用しようとした場合、まずVPNで社内ファイルを利用しようとするとSharePointServer 2010とForefront UAGという専用VPNGatewayが必須になる。UAGを利用する環境は通常ADやExchangeも含めて比較的大きな構成になるため、小規模な事業者には若干負担が大きくなる可能性がある。このUAGによるVPN環境でない限り社内のSharePointServerにアクセスしてフル機能を利用する方法がない。Web UIでSharePointServerを利用することも可能だが、その場合編集保存はできないとのこと。メール送信が可能なドキュメントの場合はExchange ActiveSyncによりSSLを利用した安全な送受信は可能になるが、WP7.5の仕様としてOutlook Mobileで添付ファイルを開いた場合、SkyDriveに「公開:自分のみ」の設定でアップロードされることがあるとのこと。自社管理領域外にデータを送信してしまう可能性と、設定のミスによってそれが公開されてしまう可能性があるため、十分な注意が必要になる。この添付ファイルのアップロード仕様はLive MailやGmailのアカウントのメールでも同様ということらしい。また添付ファイル以外にメッセージ本文においても、People HUB等に各種コンタクト情報やコミュニケーション手段が集約されている結果として、Twitter等の公開アカウント宛てに重要なメッセージ本文を送ってしまうなどうっかりミスでの誤送信で問題を起こしてしまうリスクが否定できないのではないかと心配になった。
3)現状キャリア及びデバイスの選択肢がなく参考事例が存在しない
国内でWP7.5端末をリリースしているのはIS12Tを発売したauのみ。既にauを企業利用している場合にはキャリアそのものの問題は発生しないが、キャリア乗換えを行うとなるとハードルが非常に高くなる。一般的に通信コストを抑えるために固定回線と抱き合わせてキャリア選択を行ったりするが、そうした通信インフラ全体の見直しのための工数が大きくかかってくることになる。その上上記のように比較的一般的に実施されているであろうソフトウェア構成管理や社内データ利用に大きな壁が存在するため、運用構築やポリシーの見直しなど検討し直さなければならない事項が多く、同キャリア内移行であっても相当な検討工数を割く必要があると思われる。WP7.5を採用しようとする場合には他のスマーフォンと比較して圧倒的なメリットが存在するのでなければ、こうした工数をかける理由を付けられないのだが、現状WP7.5にそうしたメリットは見当たらない。残念ながらセミナーでもWP7.5自体のアピールはあったが、法人でWP7.5を採用すべきメリットはほとんど語られていなかったように思う。採用して良かった等のよくある企業事例もまだ存在しないため、自助努力をせざるを得ず、なかなかハードルは高い。念のため事例がないものか質問をしてみたが、先行していた海外にはソフトウェア構成管理も含めて実現した事例がないわけではないようなのだが、Microsoft的には積極的に紹介したいもの(方法?)ではないようで、あまり歯切れのいい回答はなかった。企業事例を書いたパワポの文書があるとのことで紹介はしてくれるそうだ。
実際に前職(従業員2500人規模)で、全社一括での携帯電話運用の見直し&置き換えを業務として行ったことがあるが、ガラケですら結構大変だったので、スマートフォンでは更に輪をかけて大変だというのが実感を持って理解できる。当時よりも技術的手段が豊富な分、助かる面はあると思うが、WP7.5ではそうしたアドバンテージがないので、正直なところほとんどの企業担当者はWP7.5は検討対象にしないだろうと思われる。Microsoftもその辺は当然把握しており、構成管理のための System Center Configuration Manager 2012 を2012年1Qにリリース予定とのこと。PCや携帯を一括で管理できることでアドバンテージにしようとしている。Exchange ActiveSyncとの組み合わせで動作させるようなので、いろいろな構成要素を考えると小規模企業向きではないと思われるが、そうした取り組みが行われていることは少なくとも先に期待は持てる。個人的には法人での活用を目指すならば、People HUBに連携できる社内コミュニティ構築ソフト(SPSより容易で廉価なもの)と、People HUBでのメッセージ投稿先制御機能が必須だと感じたので、安心して業務コミュニケーションができる仕組み作りもMicrosoftには検討して欲しいと思う。
ということで簡単にまとめると、WP7.5の法人利用を検討するならば人柱覚悟でどうぞ。2012年1Q以降なら会社を説得する好材料が少しは手に入るかもしれません。